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絶世の美女・クレオパトラを筆頭に、歴史上の偉人たちから愛されたエメラルド。「富と権力の象徴」「未来を予言する」「解毒する」など、世界各地でその美しさには様々な力があると信じられてきました。
現在も、エメラルドと言うと特別な響きがありますね。ダイヤモンド、ルビー、サファイアと一緒に世界四大宝石に数え上げられています。
そんなよく知るエメラルドですが、実は色み以外にも、まだまだ魅力がたくさん。
中にはなかなかお目にかかれない、稀少な種類のエメラルドも存在します。
この記事では、意外と知られていないエメラルドの歴史や特性、魅力について解説いたします。
1. エメラルドとは?
① DATA
鉱物名:ベリル
和名:緑柱石(りょくちゅうせき)、翠玉(すいぎょく)
色:緑
結晶系:六方晶系
モース硬度:75.~8
劈開:なし
原産国:コロンビア、ブラジル、ザンビアなど
宝石言葉:幸運と幸福、夫婦愛、希望など
② 歴史
エメラルドの語源はサンスクリット語で「緑色の石」を意味するスマラカタ(smaragdos)からちなみます。その後ギリシャ語やラテン語などが混じり合い、現在のエメラルドが定着していきました。
このことは、エメラルドとは、長い歴史の中で、世界各地で重宝されていた証明に他なりません。
事実、紀元前4000年頃には、現在のイラク南部で栄えたバビロニアの首都バビロンでエメラルドが取引されていたことが文献に記載されています。
また、さらに有名なエピソードとしては、紀元前30年、エジプトのクレオパトラが、数ある宝石の中でもエメラルドを特に愛していた、というものがありますね。実はエジプトは最も古いエメラルド採掘場所の一つで、紀元前2000年頃には既に採掘がスタートしていたようです。
クレオパトラはジュエリーとしてはもちろん、粉末状にしてアイシャドウとして楽しんでいた、と言われています。エメラルド自体の美しさに惹かれた、ということもありますが、「富と権力が欲しい者はエメラルドをとれ」という教えが古代からあったようで、プトレマイオス朝最後のファラオ(女王)として激動の人生を送ったクレオパトラにとってはパワーストーンとして用いていたのでしょう。
なお、クレオパトラは自身の名をつけたエメラルド鉱山を使用し、13世紀頃まで採掘が続けられました。
エジプトのみならず、地中海を挟んですぐご近所のギリシャやローマでも特別な石として語られます。占星術でエメラルドは、「ヴィーナスに捧げる宝石」として用いられました。ちなみに暴君として有名なローマ帝国第5代皇帝ネロもまたエメラルドに魅入られていたようで、エメラルド製の片眼鏡を使用したとのことです。
これらの他にも、各地で「解毒に効く」「未来を予言する」などの力が信じられました。
ただ、世界的に流通するようになったのは、アメリカ大陸の発見が大きいでしょう。
南米は今なおエメラルドの主要産地です。そのため現地では古くからやはりエメラルドが愛されており、13世紀から約200年続いたインカ帝国では、装身具や神殿の装飾として用いました。
インカ帝国に侵攻し、植民地支配下においたスペインは、以後当地から採れるエメラルド交易によって資金を得、以降大航海時代の軍資金とされました。
このように歴史・そして世界的知名度ともに抜群のエメラルドは、今なおジュエリー業界でも非常に高い価値を有しています。
③ 特性
エメラルドの特性は色です。地球が生み出す天然の緑色です。そして、エメラルドは緑色を持つからエメラルドと呼ぶ、とも言えます。
どういうことかと言うと、エメラルドはベリルという鉱物であるため。
ベリルはベリリウムを主元素とするアルミニウムケイ酸塩鉱物で、花崗岩ペグマタイトや変成岩、熱水脈中から採掘されます。六角柱状の結晶を持つことが特徴ですが一律ではなく、先端が平らなもの・とがったものなど様々なタイプが存在します。
このベリル自体は無色透明なのですが、長時間マグマや熱水脈にさらされたり高圧力がかかったりすることで変成し、別元素が混入します。この元素によって緑になったり、水色になったりするのですが、緑になったものを特にエメラルドと呼んでいるのです。ちなみに水色はアクアマリン、それ以外ではピンクのモルガナイトなどの名称があります。
エメラルドの緑を生成するのは、クロムまたはバナジウムです。このどちらが混入するかは産地などにもよるのですが、いずれも美しく特有の緑を発色させます。なお、鉄もまた緑を作り上げる要素となりますが、その場合はグリーンベリルと呼ばれることが一般的。このグリーンベリルを加熱処理し、アクアマリンとすることもあります。
この生成過程によって作り上げられたエメラルドのもう一つの特徴は、インクルージョンが入っていることです。ベリル系宝石の中でも、特に多くなります。
内包物であれば「その石の味わい」と捉えることができますが、インクルージョンは時にクラック(ひび割れ)にもなります。これがあると石がもろくなってしまい、少しの衝撃で欠けたり、割れたりしてしまいます。
こういった弱点を克服するために、多くのエメラルドはエンハンスメントが施されます。他の石のように色を濃く見せる、という意図も勿論ありますが、耐久性向上という意図の方が強いかもしれません。
行われる処理は浸含処理です。樹脂やオイルをクラックの部分にしみこませ、目立たなくする手法となります。
なお、稀に低レベルのエンハンスメントがなされたせいで、経年でオイルが抜けたり蒸発してしまうことがあります。最近では見かけなくなってきましたが、これからエメラルドを購入される方は、信頼できる宝石店でご購入することが不可欠です。
いくらエンハンスメントされているとは言え、エメラルドが衝撃に弱いことに変わりはありません。硬度も低いわけではありませんが、ルビーやダイヤモンドなどと一緒に保管すると、ぶつかってエメラルドが傷ついてしまう場合があるので気を付けましょう。
なお、この脆さは、エメラルドカットを生み出す要因となりました。エメラルドはダイヤモンドのように、ブリリアントカットは施されていませんね。これは屈折率がそこまで高くないためファセットを多くしても煌めき効果はなく、であれば緑そのものを楽しめる広い平面を持たせた方が効果的に美しく見せられること。あるいはベリルが六角柱状の結晶であるため、そこから取り出したゆえ大きさ的にファセットの多いカットは適さないことなどもありますが、角を少なくすることで欠けにくくする、という目的があるのです。
エメラルドカットの他には、カボションやラウンドカットなどが用いられます。
エメラルドは熱や水にも弱い特性があります。
また、含浸されたオイル、樹脂等が取れてしまうことから、お湯につけたり超音波洗浄を用いたりするのは絶対に止めましょう。
ちなみにエメラルドには合成品が存在します。
合成品はインクルージョンが入らず、完璧に美しい透明度を持っていることが特徴です。ただ、天然に似せようとわざとインクルージョンを入れているものもあるので気を付けましょう。天然に比べればリーズナブルですが、日本製などそれなりに手がかけられている合成エメラルドは、それなりの価格帯となります。
2. エメラルドの産地
エメラルドは世界各国で愛されているにもかかわらず、どこでも採れるわけではありません。
そんな稀少なエメラルド産地の中で、有名なのはコロンビアです。
コロンビアは、世界で最も大きいエメラルドの産地です。しかも一級品が多く産出しており、青みを含まない純粋な美しい緑色を帯びていることが特徴です。
そんなコロンビアの中でも、ムゾー鉱山は別格。アンデス山脈内の西部に位置しており、世界の価値あるエメラルドはここから生まれているとも言われています。
母岩が石灰岩であるためか黒っぽいインクルージョンを含有することは稀で、純粋な緑を楽しめることが特徴です。ちなみにデューク・オブ・デボンシャーやフラ・エメラルドなど、宝石史に残るような大きく美しいエメラルドが採掘されたのもムゾー鉱山です。
ただ、ムゾー鉱山はかなり地下深くまで採掘が進んでおり、さらに掘り進めていくには大きなコストがかかってしまいます。ムゾー産エメラルドが宝石業界の中でも高額と言われるのは、この所以です。
チボール鉱山も有名です。透明度が高く、鮮烈な緑を楽しめるエメラルドが産出されます。
なお、コロンビアは世界のエメラルド産出量の6割超を担っています。
また、同じ南米に位置するブラジルやアフリカ大陸のザンビアもエメラルドが産出されます。
ただ、コロンビア産エメラルドの緑はクロムに起因していることに対し、こちらはバナジウム由来。そのため青みが強かったり、淡い色合いのものが多くなります。インクルージョンも黒っぽいものを含有する事も多くなるため、鮮やかと言うよりかは落ち着いた緑を発します。
この色味に加えて丸みを帯びた原石の採掘が多いことから、カボションカットにすることが主流です。
ザンビアがコロンビアに次いでエメラルド産出量が多く、3位はブラジルです。
ロシアやマダガスカルなどでも産出されますが、この三か国だけで世界のエメラルド供給の90%ほどが担われており、いかに土地を選ぶ宝石であるかがおわかりいただけるでしょう。
3. 見つけたら買い!?超稀少なエメラルド
インクルージョンが稀に演出する、芸術的なエメラルドが存在します。
まず、キャッツアイ。エメラルドをカボションカットにした時、石の中心に一条の光の線が現れ、猫の目のようになる個体があります。これは宝石内部に液体状のチューブインクルージョンや繊維状組織が平行に存在することで現れる現象で、オパールや他のベリル宝石などにも見られます。しかしながら、エメラルドではめったに現れません。
さらにこの光線が六条になったスターエメラルドという個体も稀に産出します。これは針状のインクルージョンによって醸し出される現象で、アステリズム効果・星彩効果などとも呼びます。キャッツアイ以上に稀少で、キレイに入ったものは非常に高い相場で取引されてきました。
このキャッツアイとスターエメラルドの他に同様の稀少性を持つのが、トラピチェです。
これはエメラルドをカボションカットにすると、結晶線が放射状に現れ、まるで歯車の様に見える為、スペイン語の歯車とう意味でトラピッチェと名付けられたといわれます。
結晶の中に不純物が混ざりそれが一緒に線として伸びた時にできるといわれていますが、まさに自然の神秘ですね。ちなみにトラピッチェはコロンビアでのみしか見つかっていません。
4. 買取相場から見るエメラルドの価値
最後に、エメラルドの買取相場から、価値を見ていきましょう。
当店GREEBERでエメラルドをお買取りさせていただく際の相場と、査定ポイントをご紹介いたします。
① 相場
エメラルドは0.3カラット程だと最高グレードのものでも30,000円程度での買取ですが、1カラットを超えると大きく価値が跳ね上がります。大きい原石がなかなか採掘されないためです。
1カラットの場合、最高グレードで140,000円、次グレードで85,000円、あまり品質がよくない場合でも数百円~17,000円程度のお値段を付けさせていただくケースがあります。
2カラットを超えると数十万円、5カラットで1,000万円を超える場合も。
もちろん状態やグレードによって価値は大きく変わりますので、一度信頼できるジュエリー専門の買取店に査定に出してみましょう。
※相場や為替などの変動で上記より価格が20%程前後する可能性がございます。
※掲載価格はエメラルドカットの場合です。
② 査定ポイント
エメラルドの価値を判断する、買取店の査定のポイントは以下の通りです。
■色
緑こそがエメラルドの価値です。そのため濃くはっきりと緑が確認できる個体が何よりも価値を持ちます。
ただ、一定の濃さを超えて暗い緑になってしまうと、価値が下がり始めてしまいます。
鮮やかで、暗すぎず薄くない色調の、青緑~純粋な緑の個体が好まれます。
ただ、色は好みで選ぶ場合もあるかと思いますので、これから購入する方は予算と好みに折り合いをつけつつ、ベストな一つを選びたいところですね。
■テリ(輝き)
テリが良好で自然光の下でもよく輝いて見えるエメラルドは高評価となります。
■大きさ
前述の通り、大きいエメラルドはなかなか産出されません。1カラットを超えると大幅に買取相場は上昇します。
■透明度
どの貴石にも言えることですが、天然のエメラルドは特にインクルージョンが多く入っているものです。それゆえ、『欠点(内包物)の無いエメラルドを探すのは欠点の無い人を探すより難しい』という名言があるほどです。ただ、キャッツアイやスターエメラルドのように、インクルージョンによって美しくレアな現象を引き起こす良いこともあります。
しかしながら、やはり透明度の高い個体が好まれることは事実です。
なお、エンハンスメントは問題ありませんが、コーティング処理や着色処理などのトリートメントは大幅に評価が下がります。
一方でエンハンスメントが当たり前とは言え、ノンオイル・無処理のエメラルドは大変貴重となる為高額査定の対象です。
■産地
鑑定士によっては、エメラルドを鑑定するとその産地が見分けられる、なんてこともあるほど、産地は重要視されます。
一般的にはコロンビア産のものが高額となります。
とは言え優先されるのは石の状態です。どこで採れたエメラルドであろうと、色や透明度、大きさが優れていれば高額査定となるでしょう。
■ブランドや使われている貴金属・貴石
どこのブランドの製品化か、また、ゴールドやプラチナ、ダイヤモンドなどが使われていたら、その価値も一緒に査定対象となります。
例えエメラルドのグレードが低くとも、他の素材と一緒に査定されたら思わぬ金額になった、というケースもあるので、とりあえず査定に出してみましょう。
5. まとめ
エメラルドについて解説いたしました。
エメラルドはクレオパトラや皇帝ネロにも愛されており、古くは「富と権力の象徴」であったり、「ヴィーナスに捧げる石」であったりしたこと。クロムまたはバナジウム由来の緑は本当に美しいですが、とりわけコロンビア産は上質なエメラルドが産出されていること。キャッツアイやスターエメラルドなど、稀少価値が高く、万が一出会えることがあったら即買いも検討したい個体があることなどをお伝えできたでしょうか。
エメラルドの美しさを通して、ぜひ地球の神秘に触れてみてくださいね。